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読書記録「ハイブリッド・チャイルド」大原まり子

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最近の本だと思ったら1993年の本だった。

収録作は「ハイブリッド・チャイルド」「告別のあいさつ」「アクアプラネット」の3つだが、独立した話ではなくすべてつながった話である。

他の生物の一部をサンプルとして取り込む事で、自身の姿や性能を対象と同等に変える事の出来る軍の新兵器のうち1体が意志を持ち軍から脱走。彼「サンプルB群Ⅲ号」は逃亡先で「ヨナ」という既に肉体の死亡した少女と出会い、そののち彼女の肉体を取り込むことで彼女の姿と生前の記憶を得る。

その後、彼は少女「ヨナ」として軍からの逃亡を続けるうち、とある星で瀕死の体を白い棺状のメカに格納して生かされている少年、シバラーマウスと出会う。彼と出会い、レシアと出会い、アディ、ドレイファス、そしてダニエルと出会い、ヨナのこころには大きな変化と、そして星そのものにも大きな変革が起きる。

一方、軍の方では時間をまたいで助言や干渉をする神官としての「かれ」が、自らの存在に揺らぎを感じていた。「かれ」は全てを識る頑固な老人として生まれ、だんだんと若返る肉体を持つ時間的奇形であった。「かれ」の肉体はもはや光の集まりのようであり、生まれ落ちたときのような絶対的な自信、頑固さはもはや失われていた。

この通り、ガチガチのSFです。正直、ヨナ(サンプルB群Ⅲ号)側のパートはともかく「かれ」側のパートは状況を把握する難易度が高かったです。「かれ」は時間を飛ぶために時系列が把握しづらいことと、フォーカスの当たる人物が章ごとに変わるときに時間も変わるため、それぞれの章がどう絡むのかがなかなか難しかったという感想です。

全編にあるテーマは「母」と「愛情」か。

ヨナを愛しておらず、ついには殺した母親、「かれ」の母親として「かれ」を産み落とす運命を知るD.H、ヨナ(サンプルB群Ⅲ号)が宇宙船兼旅の友として作ったものの、最終的には殺してしまう「母親」、星のマザーコンピュータの歪んだ愛、母親に虐待された過去を持つドレイファス、シバラーマウスやダニエルと出会い、そして知ることになるヨナの愛情、「かれ」の出会った「かのじょ」。

最近なかなか読んでなかった長編SF、なかなか時間が取れずに2カ月くらいかかって読んだので読んでやったぜ感もひとしお。面白かったです。

読書記録「チョコレートの天使」赤井五郎

結構前に購入してから積んでいたKDP小説作品です。

タイトルからはほんわかしたラブストーリーみたいなイメージを受けますが、複数のキャラクターに焦点を当てながら進む、ファンタジーかつミステリーの作品でした。

工芸や衣料などに虫素材を多用する世界で、序盤のメインとなるのは元・虫職人の二コラ。かつて虫工房の事故で父を失っている彼は、父と同じ工房で娘を失ってしまったことを切欠に虫職人を辞めてしまいました。それから無為に過ごしていた彼は、ある日酒場で「魔女が死人を生き返らせる」という噂を耳にします。そして彼は情報屋を紹介してもらうため、花売りを屋台を隠れ蓑とした密造酒の売人となります。

しかし物語の転換となるのは、ある宿屋で発生した殺人事件です。事件後からフォーカスが当たり始めるのは謎めいた老婆、そしてその娘ヒルダ、その娘ルブリー…なぜか地の文ではスノウロールと呼んでいて同一人物らしい?が、本人の記憶も地の文の記述もなんだかおかしい。

そのほか、事件を追う刑事サンオンとティティア、彼らは過去に「魔女」に命を救ってもらったという。「魔女」に関する豊富な知識を持ち、また知識を追い求める書師のマグザブ。盲目の探偵少年ツインズ・ワン。歴史上の大呪術師マド・リュード。

多くの登場人物が交差するのは「スノウロール」という女。彼女はいったい何者なのか。

読み進めていくうちに、だんだんと「これはこういうことなのでは」という引っかかりができ、判明する「魔女の秘密」に「本当の魔女」。

最後まで読み、すべてを把握するともう一度最初から読み直したくなる、そんな長編作品でした。

ただちょっと気になるとしたら、「ルブリー」が二コラの家と名前を知っていた理由がわからなかった…顔と仕事を知っていた理由はわかるけれど。

しかし、全ての謎が判明したときの爽快な読後感はとても良いものでした。全体としては長いのですが、細かく章立てしてあるので(ただし章ごとの長さは非常にまちまち)、章単位で読み進めることもできました。

「なんでこのタイトル?」と思いつつ最後まで読んだら「なるほどこのタイトル」となるチョコレートの天使、電子のみとはいえ250円。いい買い物でした。

読書記録「ニンジャスレイヤー キリング・フィールド・サップーケイ」

ニンジャスレイヤー第3部「不滅のニンジャソウル」の3巻。第1部から通すと15巻にあたります。

この巻に収録されているエピソードは6作。そして表題作「キリング・フィールド・サップーケイ」を筆頭として、サツバツとして無常な、完全なハッピーエンドと言いにくいエピソード群でした。


”ミューズ・イン・アウト”
ネオサイタマ版の「鶴の恩返し」は、ダークで、物悲しく、そして創作系読者にダメージを与える問題の名台詞が印象的なエピソードでした。

”ワン・ボーイ・ワン・ガール”
イグナイト(ブレイズ)カワイイヤッター!
この巻の中では最も明るく、光が見えるエピソード。
これまで短時間しか覚醒しなかったイグナイトが意識を取り戻して”ブレイズ”として覚醒し、ライブハウスでワオワオするエピソード。
これでエーリアス/ブレイズは両方はっきりとした意識を持って肉体を共有することになるわけですね。

”ザ・ブラック・ハイク・マーダー”
ニンジャスレイヤーは探偵小説だった?
舞台はキョート。探偵、ガンドーの情報を求める謎の女に、彼が最近解決した事件を語る老店主の視点で始まるエピソード。
事件の全容がわかってから事件描写を再確認すると、犯人のメッセージが読み取れるので2度おいしい。
うっかり最初に巻末の登場人物名鑑を読んでしまうと、真犯人のネタバレを引くので気を付けましょう。

”キリング・フィールド・サップーケイ”
口絵のゼンを感じる墨絵も印象に残る表題作。
出オチ感あふれるタイトルと、徹底的に金的を狙う殺し屋デソレイション、そして金的破壊された際の男ならわかりすぎる描写という若干コミカルな面もある序盤から、圧倒的な殺伐感と無常感へとつながる名エピソード。
サップーケイ空間で繰り広げられる無色無音の戦闘描写は秀逸で、ぜひ映像で見てみたいものです。
それにしても、『戦闘中の相手が敵組織と無関係だった上に敵組織の兵隊が一般人を殺害し始めた』ときに、一時休戦や共同戦線ではなく「早くコイツを殺して次に行かねば」という判断をする主人公は本当にブレません。

”ヘイル・トゥ・ザ・シェード・オブ・ブッダスピード”
ヘイヘイ!ヘイヘイ!ネオサイタマのハイウェイをバイクで激走する、スピードに命を懸けるやつらの物語。
そしてこのエピソードでみんな大好きサークル・シマナガシが本格登場。
ハイウェイの亡霊、クロームドルフィンを捕まえるためにニンジャがバイクで大爆走。
ニンジャじゃないけど暴走行為を加速させるカケル。
スピード感あふれる戦闘、そしてスピードの向こう側へ行ってしまったものたち。
バイクと一緒に二転三転する展開。長いのにスピード感あふれる展開が魅力のエピソードでした。

”トゥー・レイト・フォー・インガオホー”
先月の稼ぎはゼロ、借金まみれで妻は浮気。うだつの上がらない賞金稼ぎニンジャ、スカラムーシュを主人公とした短編。
スカラムーシュの小市民っぷりや、洗練されていない泥臭い戦闘を楽しんでいたうちに急に転がり始める展開、そしてサツバツ。
実際彼はニンジャであるが、強者に対する怒りはモータルのそれと同じであった。
目的を果たしたものの、結局もとには戻れない無常、スカラムーシュの結末は、かつてのニンジャスレイヤーと重なるのではないか。

いやあ、おなかいっぱい、ニンジャアトモスフィアを十分に摂取できました。
そして次の巻は…マグロ!マグロ・サンダーボルト!
アイエエエ…殺伐満載の巻の次がケオスの狂騒曲だなんて…

読書記録「BREAK-AGE EX ムーンゲッター」遠野 ひろみ

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イマジネーション・ブルーに続いてのBAEXです。

宇宙飛行士を夢見る天野忍は、アルジェリア人の恋人ファーティンや友人の陽一と共に、DP上でより現実に近い環境データを持つステージ「アトモスフィア」上で大型のロケットを装着したVP『クドリャフカ』を駆って宇宙に挑戦していました。
帰還まで含めた完全成功へのチャレンジを控えたある日、不慮の事故によって右腕を失ってしまう忍。
宇宙飛行士への夢を絶たれ、DPをプレイすることもできなくなったことにも慣れてきたころ、忍はファーティンが企業と協力してDPのプレイに対応した義手を開発していることを知ります。


飛行機乗りを夢見る青年が主人公だったイマジネーションブルーに続いて宇宙飛行士。
『アトモスフィア』の設定が明かされる前は「えっゲームのステージでどんなリアルやねん」って思いましたが、設定が明かされた後でも「『アトモスフィア』どんだけやねん」と言ったおどろき。
地上と宇宙とつながってるし下手したらまだ宇宙の先まで広がってるしもう現実シミュレーターレベルですよすごい。

あと、「ハンディキャップを持った人でもゲームを遊べるようにしたい」というのは割と現実にも通じるんじゃあないかなと。

ちなみにイマジネーションブルーに比べて、本編のキャラクターがガッツリ登場します。
通う学校が工科大だったり協力企業がイーディスだったりする関係上、懐かしの?あいつやこいつが。
樋口部長の出産話がおそ松くんネタだったのは読んだタイミング的に非常に良かったのか…?
あと会長は高専に残って研究してるんじゃなかったのか、なんでイーディスにいるのか。まだバイトか。

そういえばボトルシップトル―パーズでマーキュリー社所属だった久我がこの作中で立ち上げの話してるってことはこっちが時系列先だから、ボトルシップ時点で既婚者で下手したら子持ちだったな?あのザリガニ兄さんは。

読書記録「BREAK-AGE EX イマジネーション・ブルー」遠野 ひろみ

私の大好きなBREAK-AGEシリーズのノベライズ外伝です。
私は漫画版こそ当時から読んで、設定資料集すら買いましたがノベライズはノータッチでした。

物語は、”BREAK-AGE”の主軸そのまま、「通信対戦ゲーム『デンジャープラネット(DP)』を通しての、ある若者たちの青春」です。

主人公、堺菊太郎は、かつては飛行機乗りだった祖父の影響で大空に憧れる少年でしたが、ゲーム好きが祟ってド近眼になってしまい、20歳になるころにはパイロットのすっかり夢を諦めていました。
その代わり彼は「DP」の世界で優秀な戦闘機乗りとなり、2人の弟を引き連れて連日ゲームセンターに通っていました。
そんなある日、ロングカノンを装備した謎のVPの手により3兄弟はあっという間に撃墜されてしまいます。
それが菊太郎と、そのVPのパイロットである恭子との出会いでした。


「謎のVPに負けた主人公が、気の強い相手ヒロイン(年上)に再戦を挑み、なんだかんだでパートナーになる」のは本編と同じ流れですし、実際境遇の近い本編主人公カップルはゲスト的にちょっぴり登場します。
ヒロインの機体が「高機動で位置取りして遠距離砲撃」っていうのも、本編の九郎に近いコンセプトのような気がしますし。
しかしこの話、本編のように企業側の裏のゴタゴタに巻き込まれたり、ボトルシップトル―パーズのように悩んだりしません。
主人公もヒロインも考えは同じ、「負けた相手に次こそ勝つ」。
割と本編をシンプル・コンパクトにした感じの話、という印象を受けました。

DPは実際の街のデータを使用したステージなんてものもあるんですね…ほんとすごいゲームだ。

あとですね、「恭子さんが良い」ということが言いたいんです私は。
社会人としてしっかりしてるのも良い…
泥酔して酒瓶を並べ始めたり空き缶を積み始めたりするのも良い…
いっしょに酒飲みたい…
恭子さんの下で働きたい…


ちなみにこれ、kindle版が固定レイアウトなんですね。
通りでフォントサイズが変更できなかったわけですわ。
その点はシリーズの他作品「ムーンゲッター」でもそうみたいです。

読書記録「やおい君の日常的でない生活」魔夜峰央

BL本ではありません。
BL要素はあります。

例の「翔んで埼玉」も収録されている、魔夜峰央の作品集です。


収録作品は3つ。

やおい君の日常(的でない)生活
宇宙からやってきた謎の赤ん坊は、ちょっと抜けてる少年に育つ。
ある日、彼は様子がおかしい妹(養父母の実子)を心配し、原因を調査する。
結果その理由を推測するに至った彼が、これはどうにかせねばと悩んだ結果宇宙のアレであーしてあーなって、アッーってなって、おしまい。

・時の流れに
茨城県民は東京都民に田舎者扱いされるが、未来では茨城県民が東京都民を田舎者扱いしていた。
タイムスリップしたミコは、転移先のダンディなおじさまに一目ぼれし、彼を悩ます事件の解決に協力したいと考えるようになる。

・翔んで埼玉
都会の東京と、ド田舎である埼玉県を舞台にして都民らから差別される埼玉県民が話題の例のアレ。
ちなみに茨城は埼玉を凌駕する田舎であり秘境である。
なお、作者の出身である新潟は裏日本一の都会であり名誉東京。


この中では「時の流れに」はわりと普通にSFしてます。話もちゃんと落ちてます。
やおい君~」は面白いんですけど、わりと放り投げて終わってます。
あとがきを見るとシリーズ化しようと思ってたけど…ってあるのでなんか考えてたのかもしれませんが、まぁこれはこれで面白いです。うるうるうる。
「翔んで埼玉」は有名ですね。
3話まで収録されていて、「俺たちの戦いはこれからだ!」的に終わってます。
どうやら作者が埼玉か横浜へ引っ越したので「外から埼玉の悪口を言ったら本当に悪口ととられかねない」という理由でストップしたようです。


ちなみに魔夜先生は新潟出身なので新潟市の「マンガの家」にパタリロ!コーナーがあったりします。
飛び出すクックロビンなパタリロもいますよ。まめちしき。

読書記録「ひきだしにテラリウム」九井諒子

またしても九井諒子の短編集。

竜の学校は山の上竜のかわいい七つの子と異なるのは、今回はひとつひとつのエピソードが非常に短いショートショートとなっていること。
短いものは2ページで終わってしまい、まるで星新一を読んでいるよう。
そのぶん収録エピソードの数が多く、これまで以上にサクサク読めます。

短いものの内容はしっかりしており、外国の教訓話めいた「湖底の春」、ドラえもんが元ネタらしい「恋人カタログ」やギャグに走る「パラドックス殺人事件」、ほかにも「竜の逆鱗」は同作者のダンジョン飯に通じる空想生物を食べる話。
淡々と不思議が続く「記号を食べる」、わけのわからない食材なのになぜかフードマンガの雰囲気が漂っています。

また、4ページまるまる猫がメイクするだけの「かわいくなりたい」など、面白い話・不思議な話・ひょっと怖い話などなど、独立した30エピソード程度が収録されています。
(ただし、最後の「未来人」だけは別のエピソードを踏まえてじゃないと意味が分かりませんが)

作者はどうしてこうもアイデアがポンポン湧くのか、不思議でなりません。


ちなみに、表題にもなっている「ひきだし」は3ページで完結します。
うーん、ショートショート